草なら生える話(㐂島エンデ様へ)

比々羅鬼と伽羅が、昼下がりの縁側にて与太話していた。

眼前に広がる庭先では銀葉がひとりで遊んでいる。

両手を精いっぱいに動かしている。まるでなにか、地中に埋まった物を引っこ抜こうとしているかのようだ。


「とぉー!うおー!」


とかなんとか掛け声をあげながら、力の限り遊んでいる。

……遊んでいる……のか、あれは?実は気が狂っていたりしないか?

比々羅鬼は黙って見物していたが。


「……あいつ何やってんだ、さっきから。狐でも憑いたか?」


とうとう気になって問えば、伽羅が淡々と事情を話す。

森を散歩していたところ、巨大な毛むくじゃらの妖に出会ったそうだ。

その妖は人の子を物珍しく思い、銀葉を気に入った。

銀葉は銀葉で、毛むくじゃらの妖に抱きついてはしゃいでいた。

別れ際には土産にと、大量のどんぐりをくれた。


「そこいらに植えたはいいが、木の実が樹木になるには時間がかかるだろう。しかし彼奴は疾く生やしたいと聞かん」

「お前さん神だろ、生やしてやれよ。神対応しろよ」

「神を便利屋と勘違いするな、痴れ者」

「いや、ほれ……餓鬼と一緒になってよぉ」

「なら貴様がやれば良かろう。おい餓鬼、ジジイも手伝うそうだぞ」

「ちょっ、そんなこと言ってねえ……ッ」


露骨に嫌そうな顔をした比々羅鬼。だが時すでに遅し。

伽羅の魅力的な言葉をしっかり聞き入れた銀葉が、満面の笑みで比々羅鬼を見た。

比々羅鬼は瞬時に悟る。あっこれやらなきゃいけねえ奴だわ……と。


「うおー!」

「……ぅおー……」

「おいジジイ、声が小さいぞ。その程度で木が生えるか。そら声を張れ……フフッ」

「ちっさく笑ってんじゃねえぞクソジジイ!!」


その後、銀葉が飽きるまで延々と木を生やす真似事に付き合わされた比々羅鬼であった。

暇を持て余した神と鬼と人間のあそび(㐂島エンデ様へ)

「おう、何やってんだ」


気さくにかけられた声に、少女は振り向く。

そこに居たのは、鬼の老人だった。

ただでさえ鬼だろうにその上やくざ者のような風貌だから、見かけたら即刻逃走するのが正解。

だがしかし少女は臆せず、へらっと笑いこう返す。


「きゃや、すとーん」


舌っ足らずな上、半分くらい擬音だから意味を読み解くのは至難。

と思いきや、そうでもなかった。

何故ならば、少女は地面に穴を掘っていたから。


「……お前さんもしかして、ジジイを落とし穴に落としたいのか?」

「ん!」


少女は満面の笑みを浮かべる。

わりと歳を食っている自分のことを棚に上げて鬼がいうジジイとは、この山に祀られている神のことである。

名を、伽羅という。

その神を、落とし穴に落としたい様子だ。

しゃかしゃかと小さい手で地面を掘っている……が、その深さは、落とし穴にしては心許ない。


「……」


鬼は想像する。

仮にも神が、落とし穴にはまって呆然としている様を。

何だそれは、とてつもなく愉快じゃないか。


「おい、銀葉。俺も手伝ってやる」

「ほんと?」

「とびっきり深ぇ穴にしてやろうじゃねぇか!あいつでけぇからな、ははは!!」


文字通り子供のごとく笑い、子供と一緒になって神に悪戯を仕掛けるべく。

鬼は、少女の隣にしゃがみ込んだ。




ーー数刻後。

そこには大層な深さの穴が出来上がっていた。

全く底が見えない。

幼女の力では限界があった落とし穴だが、さすが鬼の手助けといったところか。


「じゃ、早速落としちまうか!お前さん呼んでこいよ」

「誰をだ、儂か?」


すぐ背後に、今まさに穴へ落とそうとしていた神がいた。


「……おう、ジジイ。いつから其処に居た?」

「そこの餓鬼と意気投合したあたりからだが」


つまり最初からだ。

全く気配を感じなかった。

昨今の神というのは忍の修業にも勤しんでいるのか?

否、それだけ悪戯の準備に夢中だっただけだ。


「どうしたジジイ。穴に落とすのではなかったのか、儂を」

「ばれちゃあ仕方ねぇ。ジジイ!一丁派手に落ちろ!」

「一層清々しいほどの開き直り方よな、馬鹿め。自ら落ちるわけがあるか」

「きゃやー、すてーん!すてーん!」


銀葉が目を輝かせ催促してくるのを、伽羅が心底鬱陶しそうに見下ろしている。

絶妙に混沌とした光景である。


「いいからとっとと落ちろってんだァ!!」


痺れを切らした鬼が、伽羅に上段蹴りをかます。

が、伽羅は動かざること山の如し。

むしろ蹴ってきた鬼のその脚を引っ掴んで持ち上げ、逆さ吊り状態にする。

鬼とはいえ、途方もない身長差、さらにはしっかりと掴みあげる伽羅の握力ゆえに、逃げられない。


「おい!下ろしやがれ!」

「言われなくとも、すぐに下ろしてくれる」


ふと上を……否、逆さ吊りにされているから厳密には下だが。

鬼の真下にはつい今し方まで無我夢中で掘りまくっていた深い深い穴が待ち構えていた。

鬼は察した。これから自分がどういう目にあうのか。


「ちょっ、待ちやがっ」

「神罰だ。甘んじて受けよ」

「クソジジイイイイイィィィイイイイイイイイーーーー……………………」


真っ逆さまに落ちていった鬼。

穴底で反響する鬼の断末魔に知らぬ振りを決め込み、伽羅は銀葉を見遣った。


「貴様も落ちるか、餓鬼」

「やー。ぎんよ、やぁー」

「ならば言うべき事があろう。言え」

「……うー……ごめんしゃい」


鼻を鳴らす。と、伽羅が踵を返して歩いていく。


「きゃや?」

「散歩に行く。来るなら来い」

「あい!」


瞬時に返事をして、すかさず銀葉も追いかけていった。


「おいィ!!どこ行きやがるクソジジイ、助けろ!おいィイイ」


そんな声が、深い深い穴底から響く昼下がりだった。