人間の生きる底力について考えたことはあるかい?
よく「死にたい、死にたい」と言う奴がいるだろう?
私も生前よく言っていたよ、兄貴には言う度に怒られたっけか?
安易に死をほのめかす奴ほどただ単に甘ったれてるだけだから鬱陶しい。いわばファッション希死念慮だ、ってのが兄貴の持論らしかったよ?
そんな私が思うに、生きてる者が死にたいと思うことは最大の贅沢なんだよね?
だって死んだら今度は「生まれ変わりたい」と願うだろうからね?
人間のないものねだりスキルは際限なく、およそ魂レベルなんだろうねぇ?
でも、それでもね?一方で絶対死んでたまるかって気持ちで生きてる者もいるんだよ?
命の灯火……いや、命の業火とでも言うのかな?まあとにかく、強い意志を持って、尚も生きる物もいるわけね?
そう。死なない限り、生者の行進は止まらないんだよ?
いや……あるいは死んでも止まらない、かもね?
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クローバーの廃墟、正式名称アヴァホテル跡地。
ここはもとより単なるホテルとしてだけでなく、ちょっとした遊園地等も兼ねて設計されていた。
まあまあしっかりしたチャペル設備も残されている。
そして今、そのほとんど朽ちたチャペルを利用して、結婚式が開催されていた。
……のだが、そこではとても結婚式とは思えない光景が広がっていた。
「おい」
新郎がイラついた様子で眼前の参列者たちに声をかけた。
参列者は、皆一様に同じことをしていた。
内側に向かって円になり、隣同士で両手をつなぎながら時計周りに移動したり、中心に集合を繰り返し。
途中で全員同じステップと手拍子をしている。
これは、そう。
フォークダンスの一種で、キャンプファイヤーによく見られるアレだ。
「マーイムマーイムマーイムマーイム」
「おい、やる気しないからってマイムマイム踊ってんじゃねェぞテメェら」
新郎……クローバーが唸ると、参列者一同は飽きたのかマイムマイムをやめた。
「いやはや、幽霊小僧が結婚とか砂漠に水が湧いたレベルで奇跡じゃなぁ」
「しかも相手が相手だしにゃー。なぁラッさんよ」
クローバーの隣にてうつらうつらしているラスカルが、微睡みながらも微笑みで返す。
ラスカルは、ウェディングドレス姿でいた。
肌の露出は控えめかつシンプルながらも純白の生地をたっぷり使用した、とても美しいドレス。
今日は、ブルーノ・クローバーとラスカル・スミスの結婚式である。
「神父様、貴方だけはこの場でしっかりしてもらわなければ困るのですが」
「はーァいはい……余興で歌でも歌いましょうかァ?神父様のランバダ」
「せめててんとう虫のサンバを歌ってください」
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