マイムマイムを踊りだしたり、かえるの歌を合唱したり。
真剣に祝う気があるのかも怪しい結婚式は依然として続いていた。
「いい加減にしろ馬鹿ども、仮にも結婚式だぞ」
「まぁまぁ、こういうのもいいんじゃないかぃ?面白いしさぁ。で、次どうする?」
「せやな、来賓祝辞とかどや」
突如として知らない声が割り込み、一瞬で場が静まり返った。
いつの間にか、参列者がひとり増えていた。
紺地のストライプ柄コートの、センター分けの少年。
そこにいる大半は彼が誰だか分からず、困惑していた。
ただし、わかる者は彼を敵意むき出しで睨みつけている。
「よぅ、チビ。久しぶりやな」
食ってかかる者を易易無視して。
彼はなぜかラスカルへ、親しげに声をかける。
「……、……?誰だっけ?」
「オマエ……昔あんだけ可愛がっとったやろ」
誰なのか判別できない様子のラスカルにわざとらしいため息をつきつつ、彼は続けた。
「オレや、オレ。駄菓子屋の旦那さんや」
「駄菓子屋?…………あれ、もしかして、ハイジおじいちゃん?」
「おーせやせや正解や、よう言えたなチビ」
呆け顔をしていたラスカルの表情が一変、喜色満面に。
それに留まらず、思いきり抱きつきもした。
どうもふたりは旧知の間柄、それもずいぶん仲が良いようである。
「久しぶりぃ!十年ぶりくらい?おじいちゃん全然変わってないねぇ」
「見てもわからんかったくせによう言いよるわ」
「どうしてここに居るんだぃ?危ないよ、外国に逃げた方がいいんじゃないかな」
「気にせんとき。ジジイは死なへん」
不意に謎の彼が咳払いして周囲に視線を遣る。
それに気づいたラスカルが、困惑する観衆に彼を紹介すべく声を張った。
「あっ、みんなに紹介するね。商店街で駄菓子屋さんやってる、ササガワハイジさんだよ。こう見えて結構おじいちゃんなんだぜ」
ハイジというらしい彼の隣で、にこにこ笑顔のラスカル。
わりと閉鎖的なほうのラスカルが懐くならば、怪しい輩ではないのかも。
彼について何も知らない者はそう思った。
だが。
「てめぇ……どの面下げて来やがったんです」
そんな中で、ハイジを知っている者たちは、完璧にハイジを敵とみなしていた。