ラスカルが殺されたことは、ヨザクラ教メンバーたちの心に深い傷を負わせた。
生い立ちが最悪なので、決して人畜無害だったとはいえない。
だが彼女は、案外周りから大切な存在と想われていた。
そんなラスカルを、あろうことか結婚式当日に攫って殺したササガワハイジ。
今やオズと同等の憎しみを向けられているハイジを、殺してやりたいと願う者は少なくはなかった。
「おっかない顔じゃのう、お嬢さん」
早足で北へ向かう途中。
軽薄なノリで声をかけられ、コノハナは振り向いた。
ちょっと変なコーディネートが特徴の兄・ミフネが笑顔でそこにいた。
「どこ行くのかね?鬼ヶ島かの。お兄ちゃんがお供しちゃるよ」
「ついてくんじゃねェよぅ」
「いやじゃ。ついていく」
「おめえさん、すっかりあたしの兄貴ヅラが定着しやがったねィ」
「ああそうじゃの。ハナちゃんの前方兄貴ヅラ男じゃからのう、わしは」
嫌味で言ったのにミフネは受け入れるどころか、親しみ込めた呼称を自ら名乗る始末。
何を言おうが、殴ろうが、気にも留めずついて来る気だろう。
「なぁ……ミッフィーおめえさん、ほかのきょうだい連中についてどう思ってやがる」
「あ〜、そうじゃのう。シンプルに嫌いじゃよ」
北へ向かうにつれて、徐々に道が山らしくなっていく。
下駄でも構わず登っていきながら、ミフネは「きょうだいが嫌い」と答えた。
「彼奴らの考え方が気に食わん。全員生い立ちが最悪じゃし、卑屈なのはまあいい。じゃがのう、それ笠に来て全部他人のせいにするのは違うじゃろ」
「何だィ、おめえさんも同じこと考えてやがったのかァ?」
どうやらコノハナも全く同意見らしい。
「自分が嫌な思いしたら他人のせい、人生が上手くいかないのも他人のせい。そういう負け犬根性が嫌いじゃ」
コノハナは色々特例ゆえ知らない。
だがミフネはきょうだい達と少なからず交流があった訳で、よく知っている。
彼らは何かある度に、だれかのせいにして逃げていたのだという。
オズのせいにするのはもちろん、職場の人間、友人、恋人。
あらゆる他者に責任転嫁している、とのこと。
「特に口癖が気に食わん」
「……口癖、って何か言ってたかィ?忘れちまった」
いつも通り健忘気味のコノハナに苦笑いをこぼしたミフネ、だったがそれも一瞬だった。
ミフネは、顔を嫌悪で歪ませこう続けた。
「死にたい。……そう言いよるんじゃ。事ある毎に、いや何も無くとも。しょっちゅうな」
「……ああー。そういや言ってた気ィがすらァ」
世の中には思い通りにならないことなどいくらでもある。
ある程度大人になれば、理不尽も仕方ないと流せる余裕が出るものだ。
だがしかし、オズの落し子たちは違う。
希死念慮をちらつかせれば、人は哀れんで要求を飲んでくれる。
落し子一同には、そういう考え方の癖がこびりついている。
というか、悪知恵が働くところが浅ましくて甘ったれている様にしか見えず。
「軽蔑しかできん。あのクズどもの愚痴聞くハイジ兄さんも、バカなりに苦労したのかもしれんのう」
「愚痴聞いてたのかィ、あのバカが?」
「おうとも。そもそも落し子まとめて育てて援助しとったのはハイジ兄さんじゃしの」
「へえ」
いつの間にか岩肌の坂は過ぎていた。
眼前には、森の中に佇む寂れた植物園……敵陣営のアジトである。
「さぁて、カチコミタイムじゃな」